蝶人戯画録

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ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭のヘンデル「ジュリアス・シーザー」を視聴して

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♪音楽千夜一夜302 

バルトリがデイレクターを務めることになった12年のザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭で、ヘンデルを歌いました。まあ歌は絶好調で素晴らしい。脇役で出ているアンネ・ソフィー・オッターが完全にかすむほどの出来栄えで、自分の思い通りの声と表現で完璧に歌いきっている。いまが歌手生活の最高の時を迎えているのではないでしょうか。 

劇伴はジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコですが、このオケは古楽器の嫌いなわたくしがフライブルグ・バロックと並んで高く評価する演奏団体で、とびっきり新鮮で溌剌とした音色を発し続けます。 

モーシュ・レゼールとパトリス・コーリエの下品で挑発的な演出については各方面から非難轟々顰蹙万響ですが、ならば私はあえてこれを擁護したい。例えば劇中で捕虜にしたクレオパトラをセストが犯すシーンなども、じっさいに彼女とその弟のプトレマイオス13世とは「姉弟婚!」をしているので、あながち荒唐無稽とは言い切れない。それなりに史実を研究しキーポイントを押さえている形跡もあるのです。 

さらにあえていうなら、ヘンデルのオラトリオやオペラの多くは冗長で退屈です。同じ歌詞による旋律を2度、3度、4度、5度としつこく繰り返し、ドラマの進行がさながらNHKの大河ドラマ「清盛」や「八重の桜」のようにまどろっこしいので、せめて演出くらいは思い切って遊んでくれないと、いくら天下の大歌手たちが名アリアを歌いまくっても次第にあくびが出てくるのです。 

したがって私が勝手に昔風ミニマルオペラと命名しているヘンデルロッシーニに限っては、このような面白おかしい現代風演出もあってよろしいのではないでしょうか。じっさい2011年にロバート・カーセンが演出したグライドボーン音楽祭のヘンデルリナルド」もおなじ理由によって素晴らしい観物となりました。 

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    健ちゃんが美術論をぶつ間に耕君がエビ天をかっさらっていった 蝶人