蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

野村浩将監督の「愛染かつら総集編」を見て

 

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.438

 

 夫に早くに死なれた看護婦の田中絹代に、病院の跡継ぎのボンボン上原謙が一目ぼれ。まわりからはより美しく聡明なモガ桑野道子をあてがわれるにもかかわらず、「田中がいい、絹代が好き好き大好き!」などと言って観客を最後まではらはらさせながら、最後には一転直下のハッピーエンドになだれ込むという情愛物語だ。

 

 それまでは地味だったヒロインが看護婦を辞めてからシンガー&ソングライターとして成功し晴れの舞台で大成功を収めるという、まことにとってつけたようなどんでんがえしにも驚くが、当時の観客は主題歌「旅の夜風」と題名の元になった東京文京区のお寺の愛染堂の傍らにある「かつら」の木の挿話、そして「君の名は」にも似たすれ違い劇に夢中になったのではないだろうか。

 

 かつては前後編の二本が存在したオリジナルフィルムを一本に合体したために一部要領を得ない箇所もあるが、それほど鑑賞の妨げになることもなかった。

 

 

十二年前に追われし会社の電話番号突如思い出す夜半の寝覚めに 蝶人

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