蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

クロード・オータン=ララ監督の「赤と黒」を見て

kawaiimuku2012-05-19


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.249

スタンダールの原作による1954年制作の仏伊合作映画でこのたび色鮮やかなデジタルマスタープリントに仕上がった。なんせ有名な大作家のネタの映像化であるし、美男ジェラール・フィリップと美女ダニエル・ダリュー(御年96歳で健在!)の競演だから文句のつけようもないが、世評の高さと裏腹に小説も映画もどうということはない。

原作が階級闘争を描いた社会主義小説の嚆矢だなどと嘯く文芸評論家もいたようだが、さあそれはどうでしょうょうかねえ、小西さん。王政復古の腐敗と堕落を鋭く抉って7月革命を幻視したなぞというふやけた結果還元機能法なぞにたやすく依存しないよう気をつけてください赤頭巾ちゃん。

面白いのは主人公のジュリアン・ソレルが、いつも世が世ならば「赤」服を着てナポレオンの指揮下で勲を立てたと切歯扼腕することで、仕方なく黒い僧服を纏って貴族の女をたぶらかすわけだが、ここら辺はスタンダールことアンリ・ベールの実体験をなぞっているのだろう。この人はヴェートーヴェンと違って最後まで奈翁に対する幻想から抜けきれなかった最後の浪漫主義者であったのかもしれない。

もう映画なんか明後日のほうへ飛んでしまったが、スタンダールで面白いのは大岡昇平選手が激賞する小説ではなくて、自伝と音楽論と恋愛論くらいか。映画と違ってこれだけは「いくばくかの読者を幸福にする」こと請け合いである。

スタンダールは政治などにはトンチンカンだが、女を愛することにかけては天下一品だった。別に彼がいち抜けても、フランス文学史は全然困るこたあねえわな。


スマホもfacebookも要らないでしょ、ホントは 蝶人