蝶人戯画録

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ウディ・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.242


2008年制作の米スペイン合作の映画。例に因って例のごとしの恋愛映画で、NYからやって来た若い女性がスペインのぐうえいじゅつ家の掌中にはまって、喜んだり泣いたり苦しんだりするお話だが、こういう題材ならかのエリック・ロメールならもっと上手に演出できたろうにと思ってしまうところが多々あって、さすがの巧者ウディ・アレン、都落ちしてバルセロナで健闘するも、隔靴掻痒の恨みを残すことに相成るのであった。

NHKの衛星放送でオンエアされたこの映画、珍しくなぜか日本語の吹き替えになっていたために出演者のナマの声を聞くことができず、どうもへんちくりんかつへんてこりんな感じだった。

最近劇場公開される洋画でも吹き替え版が増えてきたようだが、これは本来あるべき姿ではないし、目と頭を素早く駆使することを放棄したこういう怠け者ヴァージョンが繁殖すると大喜びするのは吹き替え役の声優だけで、洋画受容史上おおくの弊害虫と禍根ダニを残すことになるだろう。

 それからこの映画の原題は、一人の男を取り合う3人の女の名前「Vicky Cristina Barcelona」なのだが、それがどうして「それでも恋するバルセロナ」という浅墓な邦題になるのか理解に苦しむ。アカデミー助演賞をもらったとかいうペネロペ・クルスのどこがいいのかもさっぱり分からない。


結婚を諦め筆一本に賭ける男哉 蝶人