蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007年正月の歌


猪は悲しきものよ幾たびも己が額を壁に打ちつく

ついに鎌倉では産院絶ゆうろたえて町をさまよう多くの妊婦たち

耕君をとりあげし針谷産婦人科なんとかマンションに身売りしにけり

江ノ電は嬰へ長調、横須賀線はイ短調で踏切が鳴ると教えてくれたうちの耕君

耕ちゃんをいじめるような人は好きになれないわと美枝子つぶやく

正月に思うあの日あの時あの人に告げておくべきあれらのことども

少しずつ死にゆく人の貌をしてわれひとこぞりて小町を歩めり

死者は眠れ生者はめざめよと正月の古都に降りしきる雨

心さえあらばたとえ生きたえしのちもわれらが思い空に響かん

いざや行かん八幡宮より果てしなく続く一本の道