蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ジョエル・オリアンスキー監督の「コンペティション」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.39

昔この映画を見たときは、音楽コンクールの内幕暴露が新鮮でけっこう夢中になって観賞したものでした。あれは1980年だからもう20年も昔になるのですね。

30歳になんなんとする主人公リチャード・ドレイファス君が、サンスランシスコで開催される権威あるピアノ・コンクールに挑戦、年齢制限のラストチャンスに賭けるのですが、恋敵(エイミー・アーヴィング)にあえなく敗れ、「勝っても負けても仲良く生きよう」と誓った2人はさあこれからどうなるのか、と思わせつつ、キャメラはパーテー会場から遠ざかるのですが、今回はそのキャメラの粗雑さに目を見張りました。ほとんど素人の技術ですねこれは。いまどき大学の映画愛好会だってもちょっとましな撮り方をします。

お話の中身もかなり粗雑です。コンペ前夜にライバルのはずだった2人が、どういう風の吹きまわしか一夜を共にしてしまうという信じられない破廉恥カンカン。たしか避妊をしていなかったようですが、その後大丈夫だったのかなあ、と下らないことが気になりました。

最終予選に残った国籍も人種も様々な6人が、ブラームスやらサンサーンスやらいろんなコンチエルトを競奏するのですが、これがみないい演奏。それもそのはずでロスフィルがちゃんと演奏しているのです。(会場はサンフランシスコなのに!)

優勝候補の2人は男が「皇帝」を、女がモーツアルトの「26番」を弾くのですが、26番の出だしでピアノの調律が悪いと言って指揮者にクレームをつけた女は、突然モーツアルトを止めてプロコフィエフの3番を弾く!のですが、これが代打逆転サヨナラ満塁ホームランで、皇帝を凌ぐ名演奏。なんと私の大嫌いなプロコフィエフが、私の大好きなベートーヴェンをやっつける!という奇跡が起こってグランプリを射止めます。

しかし私がひそかに考えたところでは、実はこれには裏があって、リハーサルの際に伴奏のベートーヴェン解釈に異議を唱え、楽員の喝采を博したドレイファス選手を恨んだ老練指揮者(サム・ワナメーカー)が、本番の第3楽章の頭の入りをわざと妨害し、全体としては素晴らしい5番の演奏に卑劣な意趣返しをします。そしてその瑕瑾がプロコフィエフに名をなさしめる結果を生んだのでした。

それだけではありません。モーツアルトからプロコフィエフへの突然の曲目変更を指揮者に呑ませたのは、他ならぬエイミー・アーヴィングちゃんの女教師でした。今から10年目、この美貌の女教師が教え子のエイミー選手と同じようにコンペに挑戦したとき、「おいらが何とか賞を取らせてやるからな。その代わりに……」というおいしい話で処女を奪ったのが他ならぬこの指揮者だったのです。

江戸の敵を長崎で討った女教師は、夜のシスコで女一人凱歌をあげたのでした。



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