蝶人戯画録

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黒沢明監督の「生きる」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.194


何回見ても志村喬の公園でのブランコと「♪命短し恋せよ乙女」には涙腺がぐちゃぐちゃになる。ガンに冒され余命数カ月に迫った公務員の胸中を黒沢は見事に劇化し感動的な名画を誕生させた。そこでは映画の主題とテーマ音楽「ゴンドラの唄」が絶妙な相乗効果をもたらしている。

しかし、ここからは映画の感想から逸脱するが、よく考えてみると市民課長の生涯最初にして最後の達成が、必ずしも公園の建設でなくとも構わなかったのではないかという気もしてくる。福利厚生が乏しかったあの時代に公園の存在は貴重かつ重要な意義を持っていたのかもしれないが、しかしもっと重要で喫緊の市政の課題が他にあったかもしれないな。よしんばそれが一部の住民の熱望であったとしても。

死にゆく課長にとって死力を尽くして実現した公園は、あの時点で市役所&市民課が市民の総意としてめざすべきゆいいつ絶対の理想ではなくて、課長さんの極私的な野望に突き動かされての独走暴走?であった可能性も排除できないな。

通夜の場面では助役以下の公吏が非人間的で非人情な存在として敵対的に浮き彫りされていたが、これは監督の恣意的な思い入れとセンチメンタリズムが少しくでしゃばりすぎているのではないか、というのが涙をぬぐって立ち上がったわたくしの感想でした。

どこまでも君の欲望に寄生して死んでも離さぬドコモauソフトバンク 蝶人