蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アメリカン・バレエシアターの「ドン・キホーテ」を視聴する


♪音楽千夜一夜 第241回

2011年の7月23日に行われた文化会館での来日公演です。レオン・ミンクス作曲のこのバレエはセルバンテスが書いた小説に比べるとどうしょうもなくつまらないが、踊り手に人を得、オケと指揮者を得ればそこそこ楽しめるのですが、これはどこをどうとっても見劣りがします。

そもそもこのバレエ団は世界各国からの寄せ集めで、あまり団としてのキャラにきわだつ特徴や統一感がないので、プログラムと楽団によってはそれが強みにもなれば弱みにもなることちょうどジェームズ・レヴァインとメトロポリタンオペラのごとし。

この公演では幕ごとに加治屋百合子など別々のカップルがプリマを務めるというデタラメな配役をやっているが、チャールズ・バーカー指揮の東京シティフィルが劇伴をあいつとめておりますが、まことに凡庸雑駁そのもの。とかくバレエ愛好者の大半は音楽などどうでもよいのだろうが、見るのも聴くのも退屈で、時間の浪費でした。

30年前のバレエとは男性の踊り手が黒子となって徹底的に女子の美しさを見せつけることに本質があったのに、その後随分と様変わりしたことよ。当時は女子のアウターとパンティーのカラーコーデネートさえちゃんとできていなかったものだ。

それにしても男のダンサーの恥部の異様なまでにこんもりとした盛り上がりはなんとかならないものか。誰よりも愛と平和と民主主義、そして泰平の公序良俗を尊ぶ私などは、あんな醜くけったくその悪い猥褻物をずらずら陳列するくらいなら、いっそ男役はみなあそこをちょん切った宦官だけに限定してほしいと思うのだが、どんなものだろうか?


キトリ:加治屋百合子 バジル:ダニール・シムキン ドン・キホーテ:ヴィクター・バービー サンチョ・パンサ:フリオ・ブラガド=ヤング ガマーシュ:アレクセイ・アグーディン メルセデス、森の精の女王:ヴェロニカ・パールト エスパーダ:コリー・スターンズ 花売り娘:サラ・レイン、イザベラ・ボイルストン キューピッド:レナータ・パヴァム他アメリカン・バレエシアター

音楽:ルードヴィヒ・ミンクス 原振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー 改訂振付:ケヴィン・マッケンジー、スーザン・ジョーンズ 管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 指揮チャールズ馬鹿 会場:東京文化会館


小泉画伯の遺体を乗せし霊柩車妻のカローラに別れを告げたり 蝶人