蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ジョン・アーヴィング著小竹由美子訳「ひとりの体で」上巻を読んで

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照る日曇る日第638回&「これでも詩かよ」第51番ある晴れた日に第185回

 

 

私たちは、誰もが秘密を持っている。

他人にはけっして明かせない秘密。

墓場まで持っていきたいような秘密のひとつやふたつを。

 

私たちは、その私だけの秘密を大事にしよう。

なぜならそれは私が私である証しであり、

その秘密を生きることが、掛け替えのない自由であるからだ。

 

私たちは、自分を知らない。

私は生まれながらに男だと思っていたら、女だった。

女だと思っていたら、男だった。

 

私はあるときは男であり、ある時は女であり、

あるときは、その両方であり、

またあるときは、そのいずれでもないような何かである。

 

そんな私ひとりの中にいるさまざまな私を

どこまでも、どこまでも生き抜いてみたら

長い旅路の果てに、はたしてどんな私が現れるのだろう。

 

私たちの中に隠されていた、さまざまな私。

誰からも知られたくない秘かな欲望。

その秘められた欲望の蠢きこそ、私たちの生きている証し。

 

なにゆえに君はオギャアと泣かなかったのか いや泣けなかったのだ小町の針谷産婦人科で 蝶人