蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2013年鎌倉の秋

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「これでも詩かよ」第49番ある晴れた日に第183回鎌倉ちょっと不思議な物語第300回

 

 

夕方、妻と珍しく喧嘩してしまったので頭を冷やそうと外に出たら、南西の空に大きく明るい星が燦然と輝いていたのでいま話題のラブジョイ彗星かと思ってしばらく見つめていたが、いつもの宵の明星なのかもしれない。

 

ところでラブジョイ彗星のラブジョイとは人名ならむか? それとも「愛する女医の悦楽」ならむか? 甚だ怪しき命名なり。ああ、どすこい、どすこい。

 

町内の掲示板には大木宣明治さんが94歳で亡くなられた。近日カドキホールでお通夜と告別式を行います、とあった。この歳まで生きれば上等だと思うけれど、家族の人はもちろんもっともっといてほしかったに違いない。

 

されど余はさほど長く生きたしとは思わず。あと10年くらいで十分なり。と漠然と思い描きしが、あまりにもとく罷りたれば余の年金尽きて路頭に迷う困る向きもあるべし。ああ、どすこい、どすこい。

 

橋の上で見えない川を見つめていたらなにか妙な鳴き声がして頭上を黒い影が横切っていった。たぶん子供のベンジャミンを亡くしたばかりの青鷺のザミュエルだろう。

今夜はどこで眠るのか知らないが、電線にぶつからないで飛んで行けよ。

 

妻にはコーヒーを入れておきしが、果たして飲みたるや? 飲まずに冷たくなりせば喧嘩は明日に持ち越されるのでヤバシ、オトロシ。なんとか今晩中に和解したいものなり。ああ、どすこい、どすこい。

 

午後の光がアクアに烈烈と差し込んでいるので、ナビを故障させないために覆いをかけたら、そんなくだらないことはどうでもいいから車を洗うとか、ほかのもっと大きなことをやってほしい。

 

などと文句をいうので、くだらないとはなんだ。ナビのような精密な電子機器は高温に一番弱いんだ。冬でもすぐに熱くなるからこまめにかけないとすぐに壊れてこないだのように修理に大枚を払うことになるんだ。ああ、どすこい、どすこい。

 

とかえすと、もうプンプンしていっさい口を利かずなりにけり。暫時あって「ネットでは車のナビは夏はもちろん冬の日照にも壊れないように堅牢につくられています、と書いてあるよ」と大声で朗読せしゆえ、なるへそさもありなむと思ひしが、余もたやすく引き下がるわけにはいかぬ。じゃによってどこへとも告げず黙って散歩に出たり。

 

ああ、どすこい、どすこい。度し難いものは女なり。表面は柔らかでも、底面部ではじつに頑固なものが埋め込まれているのだ。

些細な口げんかで秋日和の日曜日を台無しにしたなと後悔したがあとの祭り。私は尖閣諸島を巡る日中の駆け引き、核開発を巡るイランと西欧諸国の角逐の実相に触れたような気がして、それ以上の衝突はヤバイと心得、黙して外に出たんだ。

 

毎年無数のギンナンを降らせる十二所神社のイチョウは今年は全滅。この夏の鎌倉は台風の潮風で大半の樹木がやられてんげり。かくて余は沈痛なる面もちにてこの界隈でもっとも見事な黄葉を見せている光触寺の方へと向かいつつあり。

 

ああ、どすこい、どすこい。

 

 

なにゆえに20日を過ぎれば翌月のカレンダーに変えるのか生き急ぐなようちの耕君 蝶人