蝶人戯画録

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ベローナ野外劇場ポンキエリの「ジョコンダ」を視聴する


♪音楽千夜一夜第93回

これは05年6月17日にイタリアベローナの野外劇場で行われた公演のライブです。老練ドナート・レンゼッチィ率いるベローナの管弦楽団が「時の踊り」で有名なこのオペラを好演しました。

演出と衣装はこれもベテランのピエール・ルイージ・ビッティが小奇麗にまとめています。ローマ時代の遺跡という広大な会場なので、オーケストラの音響と合唱がずれるという局面もままありましたが、実力派ぞろいの歌手たちが気持ちよさげに高音を張り上げているのがいかにもイタリアの野外公演でした。

ヒロインのジョコンダはトスカと同じような歌姫という役柄ですが、トスカがスカルピアに迫られたようにバルナバという悪役に欲情を抱かれ、トスカがローマの城壁から身を投げたように、ベネツイアの運河で自刃して果てるのです。あわれと言うも愚かな話です。

ジョコンダには恋しい男がいるのですが、この男はベネツイアの総督の細君にいれあげていて、結局ジョコンダは自らを犠牲にして惚れた男とその恋人のために身を滅ぼしてしまいます。3幕第2場の時の踊りが終わって4幕に入ると最後の愁嘆場になりますが、ここで本当にヒロインに共感して一掬の涙を流してもらえるかがこのお芝居の成功か不成功かの分かれ道ですが、本公演はその点ではいまいちでした。

しかし冒頭のスパイの流言飛語からジョコンダの盲目の母親が魔女扱いされて私刑に遭いそうになる箇所の衝迫振りはなかなかのもので、ポンキエリは人の心に迫る音楽が書けるひとだと改めて思いました。

 ちなみにジョコンダとは陽気な女という意味だそうですが、陽気なはずのヒロインが運命のいたずらで自滅に追い詰められていく悲劇的な道行が最大の見どころとはずいぶん皮肉なタイトルをつけたものです。

♪アズディン・アライアの黒のミニから柔らかな2本の脚がくねくねと降りてきた 茫洋