蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第15回

kawaiimuku2011-09-06


bowyow megalomania theater vol.1



12月7日 晴

見よ、東海の空明けて、あさき夢見し、酔いもせすん……

ぶどう色の朝やけを見ながら、僕はこの世に生まれてもっとも幸福な朝を迎えました。

太陽が空高く昇りきった頃、のぶいっちゃんはようやく戻ってきました。両手いっぱいのアジやイワシをかかえて……

なんでも眠れないまま砂浜を歩いていたら早朝の海で地引網を引いていた漁師がくれたそうです。

 僕たちはさっそく雑木林の中で火をおこしてとれたての海の幸を焼いて食べました。

すぐに僕たちはお腹がいっぱいになりました。お腹の中にどんな怒りや悲しみが積み重なっているときも、お腹がいっぱいになれば次第にそれがやわらいでいくということを僕はいつの間にか学んでいました。

でも、きれいな顔をした洋子が、のぶいっちゃんのためにせっせとアジのはらわたをとりのぞいて、きれいな指先でよく焼けた肉をつまみあげ、のぶいっちゃんにああんと口をあけさせて食べさせているのを見ると、突然僕のこころの奥にねたましさが首をもたげてくるが分かりました。


健ちゃんにひわいな花だねといわれつつ今朝も咲きたり紅蜀葵 蝶人