蝶人戯画録

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大野和士指揮ベルギー王立歌劇場で「アイーダ」を視聴する


♪音楽千夜一夜第87回


04年10月15日のライヴ収録を衛星放送の録画で見ました。この公演の最大の特徴は英国の気鋭の演出家ロバート・ウイルソンの仕事ぶりです。

メットならラクダや象が行進するところですが、そんな大げさな鳴り物は影も形もなく、きれいさっぱり簡素に徹した舞台構成とおしゃれな色彩と衣装が鮮やか。歌舞伎や操り人形の所作を取り入れたような象徴的な演技が印象的です。
オペラというよりはルネ・マグリットの演出でイプセンの演劇を見せられているような不思議な気分になりました。

そんなベルギー象徴派もどきの舞台を見上げながら大野和士指揮のモネ劇場の管弦楽団は、はじめは処女のごとく、次第に熱を帯びた劇伴を繰り広げ、最後は青白い燐光を発しながら脱兔のごとく白夜の海へと遁走していきます。

歌手はマルコ・ベルティのラダメスが時々音程が怪しくなるほかはまずまずの好演で、特に王女アムネリスのイルディコ・コムローシ、表題役のノルマ・ファンティーニの2人のメゾとソプラノが演技と歌唱で丁々発止とやりあって楽興の時を盛り上げました。

 
♪熱砂ならぬ北の白夜にむせび泣く世にも不思議な恋のアイーダ 茫洋