蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

NHK「世界ふれあい街歩き」を見て

kawaiimuku2012-08-04



バガテルop156&茫洋物見遊山記第90回


おおむねが消えてなくなればいい民放のアホ馬鹿番組の洪水の中で、やはり腐っても鯛、「皆様の」NHKは、有料とはいえ朝晩の定時ニュースをはじめ貴重な戦争記録証言、Nスペ、サラリーマンネオ、ぶらタモリ、音楽番組、CMや吹き替えなしの映画などを届けてくれる貴重な放送局です。

数年前からはじまった「世界ふれあい街歩き」という世界のあちこちをカメラを担いだスタッフが漫歩するというのどかな番組もわたしのお気に入りのひとつで、あのどこか懐かしい村井秀清のテーマ音楽と共に、それがどの町であってもひとときの海外旅行を実際に楽しんでいるような気分に誘ってくれます。 

この番組でいいのは観光地をライブ感覚で歩いていることで、もちろんそれが周到なリサーチでシミュレートされた結果であるとはいえ、思いがけない風物と小さな事件、わけても現地の住民との一期一会の突然の出会いがあるということです。

ガイドブックを時折参照するとはいえ観光名所をあえて避け、見知らぬ裏町の路地の奥にオンタイムで入っていく視点がいままでの観光番組との決定的な違いで、これは初心者のための農協ツアーのその先にある通(つう)の旅行態度に近い旅行スタイルでしょう。

私たちはたとえフィレンツエのサンタマリアデルフィオーレ大聖堂の壮麗さを忘却したとしても、ヴェッキオ橋のたもとで出会った一人の宝石売りの老婆の面影を忘れることはないのです。


大ウナギはタヒチの神様ヤシの実に顔が似ているから誰も捕らない 蝶人