蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

「輪ゴムのうた」

f:id:kawaiimuku:20130919152956j:plain

 

「これでも詩かよ」第37番ある晴れた日に第169回

 

 

大きな輪ゴム、中くらいの輪ゴム、小さな輪ゴム

茶色の輪ゴム、緑色の輪ゴム、まれに白い輪ゴム

私は、輪ゴムを捨てられない。

 

台所の引き出しの奥に全部仕舞っておいて、

時々眺めてみるんだ。

 

大きな輪ゴム、中くらいの輪ゴム、小さな輪ゴム

茶色の輪ゴム、緑色の輪ゴム、まれに白い輪ゴム

輪ゴムは、思い思いに丸まってる。

 

中学生の時、深夜の勉強にあきると、

このゴムで、ゴキブリを殺した。

 

毎晩、なん匹も、なん匹も、殺した。

百発百中だったな。

 

大きな輪ゴム、中くらいの輪ゴム、小さな輪ゴム

茶色の輪ゴム、緑色の輪ゴム、まれに白い輪ゴム

そのとき輪ゴムは、凶器だった。

 

あれから半世紀、

今ではゴキブリは次第に姿を消していったので、

私のゴムは、

なんというか、

暇になった。

 

大きな輪ゴム、中くらいの輪ゴム、小さな輪ゴム

茶色の輪ゴム、緑色の輪ゴム、まれに白い輪ゴム

私は、ゴムを捨てられない。

 

私は、小さな緑色のゴムになりたいな。

 

 

ラトル振る「魔笛」はまるでBGM ベーム/ウィーンの響き懐かし 蝶人