蝶人戯画録

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鎌倉国宝館で「北条時頼とその時代」展をみて

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茫洋物見遊山記第137回&鎌倉ちょっと不思議な物語第293回

 

 

中世鎌倉でのさばっていたのは、源家から政権を簒奪した陰険卑劣な北条一族である。彼らはライバルの御家人一族を次々に皆殺しにしていったので、げんざいの鎌倉のいたるところに、謀殺され、血に塗れた彼らの怨念をはらんだ死霊が、街にも山にも海岸にも朝な夕なに漂っているのを実感することができる。

 

鎌倉は日本有数の死都であり、全国から物見遊山にくるような呑気な観光都市ではない。北条氏に虐殺された無数の死者たちの霊を慰め、一掬の涙を零すことこそ、この町を巡る人々の正しい流儀であり作法なのである。

 

鎌倉に残っている観光遺産の大半は、暴虐と知謀の殺し屋北条氏の足跡ばかりで、そのことはこの町を世界遺産にデッチあげようと野望と商魂をたくましゅうしていた連中が、「肝心かなめの鎌倉幕府跡地の遺跡調査すら放置している」とユネスコから一蹴されたことにも象徴されている。

 

そんな悪辣非道な北条一族の中でも、頼朝の御家人のなかで最強の三浦氏や千葉氏をせん滅した張本人がこの時頼で、その罪過は彼がいくら南宋から蘭渓道隆を招いて建長寺を創建したからといって、能「鉢木」の逸話を後世に残したからといって、文化や宗教に理解を示したからと言うて、孫子末代まで許されるものではないだろう。

 

本展ではそんな悪名高き第5代執権の治世をしのぶ肖像や伝世品を並べて、その没後750年を記念している。

 

時頼の座像はぜんぶで7体も出品されている。私の大嫌いな人物ではあるが、そのうちもっとも彼の人柄を伝えている優品は明月院のものではないかと思った。

 

 

◎本展は来る10月27日まで開催中。

 

  桐一葉悪辣非道北条氏 蝶人