蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある国内亡命者の秘かな愉しみ

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「これでも詩かよ」第33番&ある晴れた日に第165回

 

 

この頃はすっかり人間嫌い、ニッポン嫌いになってしまい、その反動で草花や昆虫や動物などと馴れ親しむ機会が増えてきました。まあ国内亡命者にでもなったような気分です。

 

私が好きだったのは、滑川に棲んでいる天然ウナギの三郎ですが、こないだの台風18号の来襲でいつもの宿から姿を消してしまいました。恐らく今頃は、相模湾からマリアナ海溝へと長い旅に出たのでしょう。

 

けれども姿を消した三郎の宿のすぐ傍の土管の穴の中には、カワセミの晴子が巣を作っていて、私が「晴子や、晴子や、お前の青いドレスを見せておくれ」と声を掛けますと、「ウルルル」と鳴きながら、そのなんともいえず美しい翡翠色のドレスを見せてくれるのです。

 

それから私が好きなのは、近所の「太郎のお母さん」が飼っている被災地からやって来た柴犬の次郎です。彼女は以前頑丈でちょっとダックスフントに似た太郎という名前の和犬を飼っていたので、「太郎のお母さん」と呼ばれておりました。

 

太郎はうちの愛犬ムクと大の仲良しで、ムクが盲目になってよたよたと歩いているのを優しく見守ってくれましたが、5年ほど前に他界し、その後釜に来たのが次郎というわけです。

 

それからいま私が新たに好きになったのは、やはり天然ウナギの三郎の宿のあたりに最近棲みついたアオサギのサミュエルです。サミュエルは晴れた日も、曇りの日も、雨の日も、いつも自分の狩り場で、おんなじ姿勢で小魚を狙っています。

 

サミュエルは、以前は私が近づくと、大きな翼をにわかに広げて下流の方へ逃げましたが、この頃は、私を衛生無害な存在と認知してくれたようで、カメラを向けても逃げなくなりました。

 

ますます人間嫌い、ニッポン嫌いが嵩じていく私は、今日も家の傍を流れる滑川のほとりに立って、「三郎やーい、晴子やー、次郎やーい、サミュエルやーい」と声を掛けているのです。

 

三郎やーい、晴子やー、次郎やーい、サミュエルやーいと国内亡命者叫ぶ 蝶人