蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

山本周五郎著「小説日本婦道記」を読んで

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「これでも詩かよ」第35番ある晴れた日に第167回

 

 

同書の「松の花」に触発され、2013年6月6日の夜を思う詩

 

 

 

晴れ。風もない。だんだん暗闇が深くなってきた。

君を誘って蛍を見にゆく。

 

懐中電灯のあかりに照らし出されたのは、一尺くらいの長さの赤い蛇。身をよじって滑川の流れに身を潜めようとしている。

 

「ヤマカガシだね」と僕が言うと、

「いや、蝮だね」と、後ろからいつのまにかやってきた男が、僕らを抜き去りながら断定的にいう。

 

しかし、これは明らかにマムシではない。ヤマカガシも毒を持つが、さらに強い毒を持ち、近寄る敵に激しく飛びかかるマムシを、彼は実際に見たことはないのだ。

 

いきなり妻が私の手をつかんだ。

久しぶりに妻と手をつなぐと、その手は少女のようにちいさく、なまあたたかかった。

 

 

 

闇行けばひとつふたつと蛍降る 蝶人