蝶人戯画録

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黒田日出男著「源頼朝の真像」を読んで


照る日曇る日第442回

最近伴大納言絵巻や江戸図屏風などの図像の謎解きで大きな成果をあげている著者が、今度は源頼朝の彫像の謎解きに取り組んだ。

これまで頼朝の肖像として知られていた神護寺の「伝源頼朝像」が、なんと14世紀半ばに制作された足利直義のものであると判明して以来、では本物の頼朝像はいったいどこにあるのか?という捜索が深く静かに続行されていたわけであるが、絵画史料論、歴史図像学の権威である著者は、甲斐善光寺の胎内銘の執拗な解読を経て、当寺に安置されていた彫像こそ鎌倉前期=13世紀初期に制作された源頼朝像であると喝破する。

善光寺如来への篤い信仰を懐いていた北条政子は夫と息子の死後、次々に頼朝、頼家、実朝の3人の彫像を制作させ、善光寺常念仏堂に安置し、その追善・供養を寺に依頼していたと説く著者の主張は説得力に富むが、なによりも現存する頼朝と実朝像のもつ実在感と人物表現のリアリティそのものが、所説の正当性を雄弁に物語っていると思われる。

歴史的価値のみならず日本美術史、彫刻史上多大な価値を有するこの彫像の、一日も早い保存修復が待たれる。


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