蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2008年茫洋長月歌日記


♪ある晴れた日に その40


逝く夏やあまたの栗を拾いけり 


紋黄揚羽の雄が由比ヶ浜真っ二つ

名月や五人揃いし美人かな

道端に魚の尻尾が落ちていた

水に漬け叩きつけたるわがパソコン

おんどりゃ誰じゃあ正体明かせ

オラオラ、オンドリャガアア〜

片脚を置いてどこかへ消えた人

一ヵ月発注がない怖さかな

彼岸花刈られず残りし力かな

月下美人誰一人見ず散りにけり 

紺碧の翡翠熱帯魔境に消ゆ
 
この場所で死んだ人を覚えている


暮れなずむ夕陽か
はたまた朝焼けか
わが心なる行き合いの空 

生きることは苦しきことなり
朝毎に
私の骨は激しく痛む 

輪舞 輪舞 輪舞
三組の蛇の目蝶のカップルが
生き合いの空を舞っていた 

道端に栗がひとつ落ちていた
誰も見ていなかったので
拾って帰った 

卒中の後遺癒えざるも
理髪師は
巧みにわれを切りたり

紺碧の翡翠
故地を
魔境に変える

佐渡の空
発信カードつけて飛び立ちぬ
100%中国産のニッポニア・ニッポン

ご丁寧に発信筒をつけられて
佐渡の空に放たれしは
中国産ニッポニア・ニッポン

結局は
他人がやっていることには興味がない
ということになるんだな

ドミンゴもフレーニもゼフィレッリもみな若かった
クラーバーがオテロ振りし
76年12月7日ミラノの夜

スカラ座の罵倒にめげず
オテロ振る
カルロス・クライバーの雄々しき姿

われのみが
段ボールを捨てるらし
雨音しげき火曜日の朝

この場所で
確かに人は死んだのだ 
世界は死に塗れている

誰もが知っている
小さなことを
ひそやかに語りたい