蝶人戯画録

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上野の国立西洋美術館にて「ラファエロ展」を見て

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茫洋物見遊山記112

 

いきなり対面する「自画像」が彼の素直さと敬虔さ、夢見るような魂という人間的な特質をよく物語っているように思われる。

 

それにつづく数々の肖像画では、黒と赤の色彩の対比の中で、これしかないという正確さと大胆さで切り取られた鋭い描線に感銘を受ける。じっと見詰めていると、それらの人物の本質がおのずからこちらに向かって流れだしてくるような錯覚にとらわれる。

 

こうした画家の特質は聖母子像で最高のレベルで発揮され、「大公の聖母」で描かれたマリアと幼子イエスの図像から優しく柔らかに流れてくる目に見えない微細な粒子は、いつまでも天上の聖なる音楽を奏でているようだ。

 

私はダ・ヴィンチよりも、ミケランジェロよりも、誰もが有頂天に騒ぎ立てるフェルメールよりも、16世紀のはじめに37歳で死んだ、そんなラファエロを好む。

 

本展は来たる6月2日まで東京上野の国立西洋美術館にて開催中。

 

 

ラファエロの聖母に抱かれし幼子の甘き眠りのさめざらましを 蝶人