蝶人戯画録

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桐野夏生著「ハピネス」を読んで

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 照る日曇る日 第575回

 

江東区の湾岸にそびえる超高層マンションに棲息する「ママ友」たちの生態をあからめようとする著者の最新版の小説である。

 

ママ友とは育児する母親の仲間の謂いだそうだ。昔はだいたいおばあちゃんが嫁の育児を支援してくれたが、最近はそういう関係が崩壊しているので同世代の若い女性が育児を素材にして繋がっていく。赤ちゃんが大きくなれば自動的に解散する賞味期限付きの交わりではあるが、その裂け目から垣間見る人間関係はなかなかに趣深いものではあるようだ。

 

「ママ友」にもいろんな種類があって、超セレブは超高層の超セレブマンションに住み、青山学院幼稚園(なんでも日本一の難関たしい)の3年保育なんかを目指すそうだが、その下には松竹梅のセレブがあり、またその下には一般ピープルのママが巨大な階層を構成しているんだと。

 

こうやって書いているだけでヘドが出るほど気色が悪いが、いっけん仲良く付き合っているように見えるママ友たちの下部構造には、先祖代々の身分や氏素性、穢多非民などの隠微な階層差異、学歴や資産や勤務先や住居の経済格差に起因する差別意識が沈殿しており、本作ではそおゆー彼女たちさらなる高みをめざす熾烈な生存競争の実態をいくつかのサンプルを提示しながら明るみに出そうとしている。

 

んで、どうなるかって? 超セレブにもそうでない普通のママにも悩みは腐るほどあり、結局は世間からどう思われようとおのがじしのささやかなるハピネスをしっかり握りしめようと、てな別に目新しくもない教訓とやらに、われひとともにいつの間にか辿りついていくのだった。

 

おまけ。「ママ友」てふ日本語も相当けったくそ悪いが、家庭内暴力を振るう男を「ドメバ」と称するそうだ。ったく。

 

 

 ママ友がドメバにさんざん殴られて逃亡するがハピネスにだんだん近づく話なりけり 蝶人