蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

♪ピンポンパンの唄

ある晴れた日に 第99回&バガテルop145

あれはたしか一カ月ほど前、税務署から出頭を命じられて大蔵大臣と一緒に出向くと中国の不思議な役人みたいな奴とそのしたっぱが丁重に出迎えわが内閣が数年前に提出した予算案に疑義があり保険金利子の申告漏れが見つかったので不足分と追徴金を至急支払えというたとき嫌な予感が総理大臣の胸の奥で走ったのだがんなこと保険会社も郵便局も一言も言わなかったとわが愛する腹心の大蔵大臣が天を仰いで嘆いたが、おお、ピンポンパン、ピンポンパン、無知は万死に値する、大役人と小役人コンビは、震災に呻吟する御国のためにさなきだに実入りの乏しいこの貧乏人夫婦からしこたまふんだくる忠義を働いたのだ、おお、ピンポンパン、ピンポンパン、御主らの孜々たる労働と赫赫たる国家への忠誠がいつか陛下に嘉みされんことを!されど陛下の赤子にして巨大な税制帝国の忠実な臣民である貧乏夫婦の無辜の罪は許されず、おお、ピンポンパン、ピンポンパン、あろうことか母親と障碍者と気狂い夫の介護に尽くしていたかの優しくもけなげな大蔵大臣は二軒目の夕餉をつくらんとわき目もふらずに走行中自転車もろとも道路下に転落、右腕を骨折して救急車でERに運ばれたのだ、おお、ピンポンパン、ピンポンパン、まことに一寸先は闇、疾く治れかしと内閣総理大臣かけまくも畏み畏みまおうす。



最後まで闘いつつ死ぬは独裁者の最期の務め 蝶人