蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

不安な春


鎌倉ちょっと不思議な物語42回


去年は3月6日に発見したヒキガエルのオタマジャクシの卵を、昨日同じ場所で見つけた。

私が知る限りヒキガエルが天然自然に繁殖しているのは、光明寺の深い池と果樹園とここだけだ。

かつては春近い季節のとある日に、突如どこかから現れた何匹もの雌雄が、激しく交尾して我々人間を驚かせ、楽しませてくれたものだ。

そうして恋の勝利者たちは、長い長い輪になった透明な寒天状の袋に入った小さな黒い斑点のような卵を、どうだ、どうだ、と勝ち誇ったように湿地や水溜りのいたるところに産み付けたものだが、ここ数年、そういう心踊る光景にはたえてお目にかかれなくなってしまった。

それにしても、今年はやはり暖冬で地球には絶対に大きな異変が起こっている。

例年なら落ち葉が沈んでかなり大きな水溜りができているはずなのに、今年は渇水のためにほとんど水がない。仕方がないので、私は少し落ち葉をかき出して、小さな池を作ってやった。

このままなんとか育って、七月上旬のニイイニイゼミの初鳴きの頃、無事に孵ってほしいと祈るような思いだ。

しかし油断はできない。

去年は忘れもしない6月28日に、近所のアホバカオートバイ野郎が、この池と草地を蹂躙して大半のオタマが死滅した。

だから、いつも私は何匹かを自宅の瓶で育てて万一に備えているのだが、今年は両生類の絶滅を招きかねないカエル・ツボカビ症が、わが国にも中南米から侵入してきた。

この「カエルのエイズ」に感染すると、カエルやサンショウウオたちは皮膚呼吸ができなくなり食欲不振、オブローモフ現象などを起こし2〜5週間で9割が死んでしまう。

現に中米のパナマでは野生のカエルが全滅した地域があるそうだ。クワバラ、クワバラ。

私の大好きなカエルにも、可愛いらしいけど小生意気な木村カエラにも、どうやら明るく楽しい未来はなさそうだ。