蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ありがとう、ありがとう、ありがとう


遥かな昔、遠い所で 第7回

今日の日経の夕刊に嵐山光三郎の「渡辺和博氏の死」を悼む弔文が掲載されていた。

彼は10年間にわたって週刊朝日に「コンセント抜いたか」というエッセイを連載していたのだが、その相方のイラストレーターの渡辺和博氏がガンで亡くなったのである。

 3年前から肝臓ガンで入退院を繰り返していた渡辺氏は、後頭部まで転移し右目はしびれて見えなくなった目で、最後の作品、「60歳になった白髪のペコチャンの絵」を描いたという。

薄れてゆく意識のなかで、10年間続けてきた仕事を終えた渡辺氏は、亡くなる寸前、子どもみたいな声を出して、「ありがとう、ありがとう、ありがとう」と奥さんに言ったという。

ここまで読んだ私は、嵐山光三郎の父君の最後の「よろしく」と書かれた言葉を思い出さずにはいられなかった。

げに死者の最後の言葉ほど、生者の胸を鋭くえぐるものはない。

私は、最後まで仕事をする人が好きだ。

私は、自分の妻を愛し、感謝する人が好きだ。

ああ、渡辺さん、遅かれ早かれ私たちも全員があなたと同じ道を辿るのです。


今朝咲きし すべての梅が枝 君に捧げん


黙祷