蝶人戯画録

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ヒュー・ハドソン監督の「炎のランナー」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.458&ふぁっちょん幻論第78 

 

 

普段は忘却の彼方にある英国の由緒ある古式豊かな服飾術。それは20年に一度くらいの確率で古い歴史の奥座敷から呼び出されてくる。

 

この映画に登場するスポーツウエアがまさにそれ。冒頭のバンゲリスのテーマ音楽に乗って海岸を走る陸上競技の選手たちのユニフォームやケンブリッジのキャンパスにつどう学生たちの制服やカジュアルウエアはいまみても新鮮でカッコいい。

 

1924年、彼らは世界中からパリの第8回オリンピック大会に集ったスポーツマンたちと世界一をきそうのだが、その主役がユダヤ人のエイブラムズとスコットランドのエリック・リデルというところにこの英国映画の複雑さと面白さが隠されているようだ。

 

しかしなんといっても一番カッコいいのが、スコットランドから英国代表として参加した敬虔なクリスチャン、リデルで、日曜日に予選が行われる100mへの出場を拒否した彼だったが400mでは見事金メダルを獲得する。走ることが神の御旨にかなうと信じる彼がランイング・ハイというよりもスピリチュアル・ハイになって恍惚とゴールを駆け抜けるシーンは感動的だ。

 

その後中国での布教活動に赴いたリデルだったが、1943年に日本軍によって抑留された山東省の収容所で脳腫瘍で2年後に亡くなったそうだ。

 

余に「ランニング・ハイ」てふ言葉教えてくれしアメリカン人35年前に亡じたり 蝶人