蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

デヴィット・リーン監督の「戦場にかける橋」を見て

kawaiimuku2013-01-06



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.375


投降したとはいえ軍隊の誇りと規律が大事か、それとも敵国への非協力とサボタージュが大事か、と問われれば、私などはもちろん後者がより重要だと考える。

ところがこの映画の英軍指導者ニコルソン大佐は、前者の考え方に立脚して泰緬鉄道路に架かるクワイ河橋の建設に命を賭けるのだが、ともかく最初の料簡が食い違っているからあんまりアレック・ギネスに加担した映画見物は出来ない。しかし彼が将校の労働を禁じたジュネーブ協定の書類を懐中しているのには驚くとともに感心した。

背後から爆撃を受けたアレック・ギネスは懸命に立ち上がり、落ちた帽を拾いあげ、きちんと姿勢を正そうとしながらその場でどうと斃れるのだが、それがいかにも気丈な英国軍人の最期らしく、さすがはりーンの演出は凄いなと唸らされる。

投降も捕虜もジュネーブ条約も眼中にない無法国の斎藤大佐やヨノイ大佐との違いは、「戦場のメリークリスマス」でもあからさまに描かれていた。もし本邦がまたぞろ中国などと戦争をおっぱじめたら、またもやジュネーブ協定など無視して捕虜をぶった斬ったり民間人を虐殺するに違いない。自慢じゃないが、我々は「個」としては殊勝に悟り澄ましていても、「集団」となって武器を手にすると何をしでかすか分からない危険な人種なのだ。

クワイ河マーチ」が世界中でヒットしたが、英軍捕虜たちはあんな本当に口笛で吹けるのだろうか? いくら世界に冠たる合唱能力の持ち主たちとはいえ、息も絶え絶えに行軍しながらあんな高い音をだせるとは信じられない。


初夢で安倍の覆面ライターを頼まれし吾頑なに辞して名古屋に帰る 蝶人