蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

東京国立近代美術館の「美術にぶるっ!」展をみて 後編

kawaiimuku2013-01-13



茫洋物見遊山記第100回

「実験場1950S」と題された第2部は、土門拳の衝撃的な原爆写真で幕を切って下ろします。原爆病院の患者さんの無惨な傷跡の痛みは藤田のアッツ、サイパンの断末魔と完璧にシンクロしていました。

木村伊兵衛の東北、濱谷浩の裏日本の暗い風土を撃つ強靭なリアリスムも凄いが松本俊夫の「白い長い線の記録」と「安保条約」をここで見ることが出来るとは思わなかった。私がリーマンになってすぐにこの優れた映像作家とテレビCMの仕事をさせてもらったのは懐かしい思い出です。

思いがけないといえば会場に1959年の在日朝鮮人の北朝鮮帰還を伝えるNHKニュースが流されていて驚きました。「北朝鮮は地上の楽園」などというデマに先導され、当時60万人いた在日朝鮮人のうち10万人弱がおよそ25年掛けて北朝鮮へ帰還していったのですが、その後彼らを待っていた悲惨な運命については周知の事実。私の妹の同級生リー・クッスンはまだ生きているんだろうか、としばしモニターの前に佇みました。

ところで今回の出しものを通じて最も素晴らしい作品は、会場の2階のエレベーター前で上映されていた田中功起クロネコヤマトの段ボールを駆使した流動感抜群のインスタレーション・ビデオ。これを眺める人は、会場内のあらゆる作品を軽やかに見下しながら疾走し、しかも国立近代美術館のあらゆる空間を利用尽くした運動映像の不可思議な酩酊感を体験できるのです。


五輪とは自国再生の道具にあらず世界平和の祭りなり 蝶人