蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

野村芳太郎監督の「拝啓天皇陛下様」を見て

kawaiimuku2013-01-16



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.382

普通の戦争映画なら新兵いじめの地獄のような光景をこれでもか、これでもかと見せつけるのであるが、この作品ではそういう残酷物語のような暗黒面は後景に退いている。

渥美清が演じる主人公は、「シャバと違って軍隊では3度3度旨い飯が食えるのがいい」と公言するような人物で、おまけに天皇陛下に対してじかに手紙を出そうとする。

ここには当時数多く存在した農村出身の無知で貧しくて「純朴な」大衆の原核が躍動しているが、それにしても「天皇陛下万歳!と叫ばないで死ぬ兵隊はけしからん」などと本気で言挙げし、それをせせら笑う兵隊に突っかかって行く主人公には鼻白む。安倍保守反動政権が徴兵制を復活した暁には、きっとこういう手合いがまたぞろ軍営内で大量生産されるに違いない。

主人公があこがれる美貌の元人妻に、あの妖艶な高千穂ひづるが出演している。


世界など犬に喰われよ歯が痛い 蝶人