蝶人戯画録

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鎌倉市川喜多映画記念館で鈴木重吉監督の「何が彼女をそうさせたか」をみて

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.595&鎌倉ちょっと不思議な物語第296回

 

 

1930(昭和5)年、世界恐慌の真っ只中に公開され、浅草常磐座で異例の5週間続映という空前の大ヒット。当時の世相の一面を形成するほどに一世を風靡し、タイトルは流行語にもなったと、伝説のように語り継がれてきた。

 

その後フィルムは失われ、長らく現存しないとされていたが、平成5年にロシアで発見された。幻だった日本映画史のマスターピースが、鈴木重吉監督の地元鎌倉で、いま甦る!

 

という惹句を、鎌倉の川喜多映画記念館のホームページからそのまま頂戴しましたが、高津慶子演じる幸の可憐な少女が親戚や曲馬団長や養護院などを転々としながら恋人と心中にも失敗し、さまざまな労苦と試練に苛まれるという可哀想な物語なのである。

 

鈴木は映像リアリズムの手法で人物や事物に肉薄しており、冒頭の執拗な粥のクロースアップは毎朝大家族で芋なき芋粥を口にした私の貧しい幼年時代を想起させてもの哀しかった。

 

けれども私と違って健気なヒロインは運命に果敢に歯向かい、クライマックスでは、外部に手紙も出せず自由に社会復帰も許されないキリスト教の修道院長に反抗、放火して官憲に逮捕され、「何が彼女をそうさせたか」という字幕が大きくクレジットされ、この名のみ有名な歴史的映画は終わるんである。

 

いかにもプロレタリア文学者の藤森成吉ならではの内容であるが、大ヒットの原因はその社会思想そのものではなく、「何が彼女をさうさせたか」という欧文直訳体もどきのきどったタイトルのせいだろう。

 

残念ながら冒頭と結末部の映像が失われてしまっているが、東欧の音楽家たちによって新たに付け加えられた音楽がなかなかよくできていて、後付けとは思われない劇的な効果を収めている。

 

 

生れたての蟷螂なれど道の辺に発条飛びだし轢かれておる 蝶人

 

 

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