蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

斎藤武市監督の「ギターを持った渡り鳥」をみて

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.586

 

 

石原慎太郎と同様、石原裕次郎も嫌いだが、小林旭は好きだ。巨人よりも阪神のほうが好きというようなもんかなあ。

 

長すぎる映画は嫌いだが、短い映画は好きだ。大人より子供が好きというようなもんかなあ。

 

ということで久しぶりに見物した日活の活劇映画でしたが、まあ中身を語るだけこころが寒く寂しくなるってなところで、その代わりに私がまだ行ったことのない函館の海や町が素敵に美しく捉えられている。おそらく現在の実物よりももっと奇麗に美しくね。

 

それがこの映画の最大の魅力ですかね。もちろん旭選手が理由もなくギター弾きながらラアラア歌ったり、それを観ていた浅岡ルリ子が理由もなく惚れたりするのですがね。

 

 


ジャンニ・アメリオ監督の「家の鍵」をみて

 

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.587

 

 

生みっぱなしにしたまま友人の元に長く放置していた父親が、その良心の呵責に耐えかねて障がいのある息子と再会し、和解し、共に新しい人生の一歩を踏み出すまでの物語です。

 

同病相哀れむではありませんが、同じ病院に入院している娘を持つ女性シャーロット・ランプリングが、苦悩する父親に向かって、「二〇年以上娘の面倒を見てきて、彼女の手足を洗いながらその絶望し切った眼を見ると、「なぜ死なないの?」と言いたくなる時があるの」と告白します。

 

 こういう思いは、障がいを持つ子供を持った親なら一再ならず懐くに違いないのですが、それをこういうふうに言える他者になかなか巡り合えないのですね。

 

この時この言葉をある種の衝動に駆られて発語した彼女は、それによってある意味で大きく救われたわけですし、その衝撃的な告白を耳にした若き父親も、それによって絶望するどころか、それでも彼女のように生き抜こうという力を得るわけで、これがこの映画のハイライトだと思います。

 

 困難な道を選び取る決意を固めた父親のキム・ロッシ・スチュアートと、シャーロット・ランプリング、そして障がいのある息子役アンドレア・ロッシが素晴らしい。

 

 

CDを買う人は本も買うがCDを買わない人は本も買わないって知ってました? 蝶人