中上健次集第9巻「重力の都他9篇」を読んで
照る日曇る日第633回
「宇津保物語」は、鞍馬の北山の大樹の「うつほ」に母親と主に棲み、獣に琴を聴かせて育った藤原仲忠という琴の名手が、いつしか摂関政治の頂上に迫ってゆくという下剋上、逆貴種流離譚で、すこぶる読み応えがある。
本巻にはその「宇津保物語」のほか、未完に終わった「重力の都」などいくつかの不揃いの短編群が並んでいるが、これらは特にどうこうあげつらうようなていの作品ではない。
「重力の都」を構成しているのは、表題作のほかに「よしや無頼」「残りの花」「刺青の蓮花」「ふたかみ」「愛獣」の5作品であるが、それらの有機的な連関はほとんどなく、彼がこの時期までに書いた短編の主題の余韻を伝える変奏曲集といった趣である。
ただ注目すべきは、彼には「吉野」というタイトルの短編がなんと3本もあることで、作家とこの神話的な土地との根深い因縁というものが、その事実からだけでも伺えるというものである。
軍事政権が名付けし国名を忌み嫌いまだビルマと呼んでいるのは私だけかな 蝶人
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