蝶人戯画録

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佐藤賢一著「革命の終焉」を読んで

 

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照る日曇る日第631回

 

 

1794年草月、最高権力者の地位に昇りつめ、「最高存在の祭典」を全パリ、全フランス、全世界の人々の前で華やかにことほいだ「独裁者」ロベスピエールが、その翌月の熱月7月28日には盟友サン・ジュストクートンはじめ21名の同志とともに断頭台の露と消えるとは、彼らを死地に追いやった政敵のデルボワ、ヴァレンヌ、バレールたちすら思いもかけないカタストロフだったに違いない。

 

革命の理想をロベスピエールほど純粋に追究した政治家は他にはサン・ジュストしかいなかったが、その理想が純化されればされるほど、その政策は独善的かつドラスティックなものになり、政敵に対する過酷さと専制が度を越していった。

 

ロベスピエール自身はげんみつには独裁者ではなかったが、その政治が独裁的であり、叡智と徳を求めるはずの政治が、不寛容と死の恐怖政治へと反転していったパラドクスは歴然としている。

 

自由・平等・友愛の精神的修養なんぞより目の前にある肉体的満足を求める大衆の声はパリに満ちあふれ、もはやロベスピエール一派の前途は閉ざされていた。

 

独裁者に殺される前に独裁者を殺せ! 政治的闘争の本質は敵の抹殺であり、食うか喰われるか、殺すか殺されるかの修羅場の連続に疲れ切ったこの一代の革命児は、もはや革命の理念も、おのれの理想すら信じきれない悲劇的な最期を迎えることになったのである。

 

ロベスピエールの死後、仏蘭西は異端児ナポレオンを生みだしたが、ロベスピエールが夢見たほんらいのフランス革命も死んだ。しかし彼らが成し遂げた自由・平等・友愛を求める戦いは、仏蘭西の王政・貴族制の暗躍と伸長に一時的にせよ鉄槌を下し、市民階級の台頭に大きく寄与したことは疑いえない。

 

佐藤賢一による「小説フランス革命」は本巻をもって大団円を迎えたが、最新の革命史研究の成果を惜しみなく盛り込んだこの全12巻シリーズは、抜群に面白くて為になる歴史読み物として、末長く読み継がれていくことだろう。

 

 

 

六十代で夫婦生活復活と触れ回るあれらの誇大広告を取り締まれすぐに 蝶人