蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ベンジャミン

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「これでも詩かよ」第45番ある晴れた日に第178回

 

 

朝起きて、家の前を流れている小川を見たら、君がいた。

 

黒く濡れた君の瞳には、午前10時の太陽がにぶく輝いている。

 

おおベンジャミン、君はいったいどうしたんだ?

 

きのう下流の滑川をたった一人でよたよたと歩いていたのに、どうしてこんな上流までやってきたんだ?

 

君のお母さんのザミュエルを探していたのかい?

 

何日も何日も、たったひとり必死で小魚を追っていたのかい?

 

それとも悪童の邪悪な投石に追われて、ここまで逃げて来たのかい?

 

おおベンジャミン、私がベンジャミンと名づけた美しく小さな青鷺よ!

 

いま君は、白い斑点が混じった薄茶色の翼をゆるやかに閉じ、黄色い2本の脚をまっすぐに突き出している。

 

そして、透き通っていかにも冷たそうな秋の水は、君のやわらかな体を回りこみながら、小さな波とよどみをつくり、由比ヶ浜をめざしてひたすら流れてゆく。

 

おおベンジャミン、私の愛した小さな青鷺よ!

 

水の中の君のつぶらな瞳は、なおも青空に浮かんだ雲をじっと見詰めている。

 

 

 

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心臓の痛みに耐えながら妻が運転する車の助手席に座っている 蝶人