蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

石井裕也監督の「舟を編む」をみて

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bowyow cine-archives vol.656

 

三浦しをんの原作は読んだことがないが、その代わりにこの映画を見たが、なかなか面白かった。登場する人物もことごとく壺にはまっているし、私の嫌いな宮崎あおいも意外な好演をみせている。

 

若いのにこの監督はなかなかやるじゃないかと引きつけられて鑑賞しているうちに、まてよ、俺の生涯の夢は辞典を編集することだったはずではないかと妙なことに思い当った。

 

そうだ。私の夢はなにを隠そう、この映画で加藤剛小林薫松田龍平が演じている辞書編集者になることだったんだ。

 

この映画では「広辞苑」とか「大辞林」、「明解国語辞典」の編集部を思わせるようなシーンがでてきて愉しいが、私が目指していたのは、かつて大槻文彦が一個人で完成させた「言海」を下地にかのサミュエル・ジョンソン博士とアンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」の風味を混ぜ合わせた、超個性的かつ非実用的辞書、小説より面白い読む辞書、読ませる辞書であった。

 

しかし実際の私は、辞書編集よりももっと不向きな正反対の方向、(この映画でオダギリ・ジョーが演じているような)に進撃してしまったことをいささか悔やむような思いでこの国産映画の秀作を眺めておりやした。

 

なにゆえにまだなにゆえ音頭を踊っているの橘曙覧の「たのしみは」が応援してくれるので 蝶人