蝶人戯画録

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初秋の鎌倉ガイド 後篇


鎌倉ちょっと不思議な物語第206回

ちなみに鎌倉にはいろんな飲食のお店があちこちにありますが、きわめて少数の例外をのぞいてみなろくなものはありません。駅の向かいの料亭Tなどは最悪です。テレビで紹介された有名店の大半は、良識ある鎌倉市民が昔から見向きもしなかったC級店です。そんな店に延々と並んで貴重な散策の時間を無駄にしてはなりません。

また昭和の終わりごろに訳のワカラん非地元的土産物屋が突然立ち並びはじめた「小町通り」なる商店街などを断じて通ってはいけません。それから鎌倉のお土産は豊島屋の鳩サブレーと昔から決まっています。ほかにもまぎらわしいサブレーがあるから要注意です。

?閑話休題。さてツアー再開です。江の電で再び鎌倉駅に戻ったら、横須賀線で一駅の北鎌倉まで直行します。乗る時は後方の車両が便利です。降りたらすぐに東京方面を眺めてください。ここが小津の「晩春」だか「麦秋」だかで笠智衆原節子の父娘が並んで立っていた懐かしのプラットホームのロケ現場です。節子さんはつい2,3年前まで浄妙寺のすぐそばで暮しておられ、司葉子さんなぞと麻雀を楽しんでおられたようですが、現在は某所に居を移されたようです。

左側の改札口から降りると(右に降りるとあとで訪れる円覚寺)目の前が道路なので、これを左折して鎌倉に戻る方向にどんどん歩きます。踏切を渡って5分くらい行くと左に見えてきたのが建長寺。700年前のちょうどここいらで一遍上人北条時頼に「待った」をかけられてとうとう鎌倉に入れなかったのです。仕方なく一遍上人はのちに隠れキリシタンのお寺として知られるようになった光照寺に泊まったと伝えられております。もちろん時宗のお寺です。

?その時頼ゆかりの建長寺をみてから、もと来た道を戻ると、左側に昔尼寺だった東慶寺があるので、ここで小林秀雄高見順西田幾多郎、野上豊一郎、田村俊子和辻哲郎などのお墓参りをしてから、

?横須賀線の線路の踏切を左折して、どんどん進んだところにあるアジサイで知られる明月院を拝観し、ついでに近所の故渋澤龍彦邸を眺め、最後に駅前の円覚寺に詣で、漱石ゆかりの帰源院や舎利殿をちょいとのぞいてみましょう。

?鎌倉はほかにもさまざまな見どころがありますが、ちょっと詰め込み過ぎとはいえこの一日コースはどなたにもお勧めできるのではないでしょうか。またお出かけの節は、鎌倉市観光協会のホームページをのぞいておくと勉強になります。このコースでは帰路は北鎌倉駅になりますが、鎌倉から帰るようにコースを変更してももちろん構いません。

蛇足ながら鎌倉は道路が大混雑するので車では絶対に来ないこと。電車も帰りが混雑するので、鎌倉駅から東京方面に帰るときは、東京寄りの最前列の車両に乗るか、余裕のあるときは一駅先の逗子まで行って、そこで改めて上りに乗り換えると必ず座れます。
横須賀線は逗子で末尾に4両連結しますし、湘南新宿ラインはぜんぶ逗子が始発だからです。


♪食べ歩いても食べ歩いても失望す名物に旨いものなし 茫洋