蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アントネルロ・アルレマンディ指揮東フィルで「トゥーランドット」を


♪音楽千夜一夜第82回


08年10月に新国立劇場で行われたプッチーニの最後のオペラの公演をビデオで鑑賞しました。

ドイツからやってきたヘニング・ブロックハウスの演出で、このオペラの舞台はなぜだか1920年代のイタリアに設定されています。村の市場にプッチーニ夫婦がやってきたところでサーカス芸人が呼び止め、イタリア特有の仮面劇「トゥーランドット」を一同が仮面をつけながら開始するというのが第1幕までの「見立て」です。

幕が開くとプッチーニ夫妻はそれぞれ主役のカラフとトゥーランドットを演じ、リューが自刃したあと主役の愛の場面からは全員が仮面を脱いで元に戻るという設定なのですが、いったいそれがどういう意図で、またどういう効果を狙って行われたのか、頭が弱い私には最後まで理解できません。頭のよさそうな演出家のブロックハウスさんには馬鹿にもよくわかるようにぜひとも解説していただきたいと思ったことでした。

 この有名なオペラにはこれまでにも数多くの名演奏や名録音、録画があるわけですが、主役のイレーネ・テオリン、ワルテル・フラッカーロがそれなりの美声で一生懸命に「3つの謎に1つの死」とか「誰も寝るな」とか歌っていることはわかったけれども、それはいったいどうした、こうした。
凡庸な指揮者が凡庸なオケを適当に鳴らしていることもよーくわかりましたが、いったいそれがこれまでの演奏歴に格別新しい意義を加えたのかしらと自問自答してみると、結局はただのひとつも付け加えるものがなかったということが、おりしも死に瀕している油蝉に吹きつける一陣の秋風のようにそぞろ身に沁み、こういう駄演で残りも少ない私の貴重な時間をまたしても無駄にさせるのだけはどうぞやめてほしいものだなあ、とつくづく思った二時間一四分でした。

  ♪秋風やとぎれとぎれに泣いているひとりぽっちの油蝉かな 茫洋