蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

藤原歌劇団の「ジョコンダ」を視聴して

kawaiimuku2010-03-23



♪音楽千夜一夜第120回


昨二〇〇九年の一月三一日に東京文化会館で行われたポンキエルリのオペラ「ジョコンダ」のあら珍しや四幕版の公演をビデオで見ました。

まず特筆すべきは指揮者菊池彦展と東フィルの好演です。この指揮者がどのようなキャリアの人か私は全然知りませんが、彼は大きな手振り身振りでこの不感症のオーケストラを力ずくで眠りから叩き起こし、波乱万丈の物語が進行するにつれて、オペラに不可欠な熱いコンブリオの力動をもたらし、ついに観衆の興奮と感動をもたらします。

力の限り歌いまくる歌手と、それに対抗して負けじと昂揚していく管弦の高鳴りこそはオペラの醍醐味。最近私が聞いたウエルザーメストの青白いインテリ貧血症のコンコンチキ音楽とは180度ベクトルの異なる正則音楽を耳にして、これなら欧州より日本のオペラの方がよっぽど優れていると痛感しました。

表題役のエリザーベト・マトスとその恋人エンツオ役のチョン・イグン、ジョコンダに横恋慕する密偵バルナバ役の堀内康雄も好演。2幕の冒頭では有名な間奏曲「時の踊り」が奏でられ、そのあとは一気に海上船の火災や3幕の黄金の館へとなだれ込みますが、終幕第4幕のジョコンダの自害まで快い緊張を保ちながら音楽は疾走し続けます。

オペラや作曲家の精神にいっさい肉薄することなくおたまじやくしの表層をまるで水澄ましのようにすいすい滑走する凡庸なフランツ・ウエルザー・メストや小澤征爾とは鋭く一線を画する充実した公演記録でした。

♪おたまじやくしの表層を水澄ましのごとく滑走する小澤メスト輩 茫洋