蝶人戯画録

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ワーナー盤「バッハ大全集」を聴いて


♪音楽千夜一夜 第163夜

ワーナーミュージックといっても実際はテルデックとエラートレーベルによる全50枚CDによるコンンピレーションです。またしても1枚243円というロウプライスに目がくらんで買ってしまいましたが、さすがは音楽の王者J・S・バッハ。誰がどのように演奏しても頭を深く垂れて傾聴するにふさわしい演奏揃いなのはさすがです。

しかしてその内容は、アーノンクールが22枚のほか、コープマンが5枚、そのほかレオンハルト、リヒター、シュタイアー、スコット・ロスなど、定評ある演奏が数多く揃っています。

バッハの宗教音楽は誰がなんといおうがカールリヒターとミュンヘンバッハ菅の演奏に尽きるので、アーノンクールふぜいが懸命にやってくれてもそれほどの感銘は受けませんが、同じナンバーを謹厳生真面目なリヒター盤と比べてみると、ずいぶんあまくて緩くて自由な態度で演奏していることが分かります。
まあこういう立場のバッハがあってもよろしいのではないでしょうか。カンタータだけでなく仲間一党と組んだヴァイオリンソナタも思いがけない喜悦をもたらしてくれましたし。

そこへいくとトン・コープマン選手はさっぱりです。このセットでは心地よいハープシコード協奏曲の調べを聞かせてくれましたが、最近FMで聴いたばかりのベルリンフィルを指揮してのカンタータはアンサンブルもめちゃめちゃで、「これでもバッハ?」というけったいな演奏でした。超一流オケを前にしてあがってしまったのでしょうが、自分の手兵とでないと音楽ができない指揮者は困りものです。


ところでこのコンピレーションを企画したのは韓国のワーナーミュージックです。
しばらく前に鶴首されていたリリー・クラウスの第1回のモノラル録音のモーツアルトのソナタ全集を発売したのもおなじ韓国のEMIでした。
私がいま毎日のように聴いているRCAリビングステレオ全集全60枚セットもやはり韓国盤ですが、現在ウオンが安いというだけではなく、この国のクラシック業界のほうがマーケティングのセンスが優れているのではないかという気がしてなりません。



どうしてああも自分勝手な奴なのだらうと思っているのであろう 茫洋