蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

今夜もウナギはダンス、ダンス、ダンス――滑川夜話最終回


バガテルop132&鎌倉ちょっと不思議な物語第228回

この生命力みなぎる生物についての雑文を書いてからちょうど1か月が経ちましたので、後日譚の後日譚を書いておきましょう。

たしか前回は近所の植木屋のKさんが、カーバイドを入手したらそれを駆使して可愛いウナギ犬を逮捕する計画をたてたところ、までだったと思いますが、さいわいなことに今のところカーバイド爆発計画は不発に終わり、私の愛するウナギたちは、夜な夜な愛の交歓を続けています。

この節は日が落ちるのが早くなったので、夕方6時半に黄昏迫る滑川まで行ってみましたら、あれから一段と大きく長くなった2匹の大ウナギが、追いつ追われつ全身をぐるりぐるりと回転させながら、ウサギならぬウナギのダンスを見せてくれました。

楢の木のほの暗い木陰でひとところにかたまって背びれだけをひらひらさせているハヤたちも、息をひそめて彼らの舞踏を見つめています。

そこで私は、音痴であるのをものともせず、ア・カペラで高らかに歌いあげました。


♪ソソラソラソラウナギノダンス ソソラソラソラナメリカワダンス


6小節を歌い終わってまた道端の滑川を見下ろしていると、そこへちょうど近所のTさんが通りかかりました。Tさんは昔学校の教師をしていましたが、いまは悠々自適のご身分です。私が

「この世紀の見世物をご覧なさいな」

と勧めると、しばらく夢中になって見物しておられましたが、突然携帯を取り出しましたので、このオオウナギの饗宴をデジカメに記録しておこうとするのかと思ったら、

「そういえば最近私の家の庭にカルガモの親子が団体でまぎれこんできたんですよ」

と言って、可愛いいカルガモちゃんたちの写真を見せてくださいました。
けれどどうやらこの方は、ウナギよりもカルガモちゃんが可愛いいらしいので、私はちょっとがっかりしました。

Tさんが去ってしばらくすると、今度は有名な日本画家の小泉淳作先生が腰をくの字に折り曲げながら、ゆっくりこちらにやって来ました。
ちなみに先生は今月27日まで日本橋高島屋で東大寺本坊襖絵完成を記念した一大展覧会を開催されています。そこで私は、

「先生、先生、ウナギですよ。ウナギがダンスしておりますよ」

と申し上げようとしたのですが、折悪しくそこへ鎌倉駅行のバスが滑り込んできたので、白髪の魔法使いのような先生の姿は、疾走する京急バスのドアの奥に飲み込まれてしまったのでした。

魔法使いの棒一閃オオウナギぐるりぐるり 茫洋