蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

サム・メンデス監督の「レボリューショナリー・ロード」を観て

f:id:kawaiimuku:20130624093901j:plain

 

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.549

 

 外見からはなにひとつ苦労がなさそうで万事順調とうつる人にも意外や意外大きな陥穽が隠されているものだ。

 

 ここではないどこか、ならきっと達成されたはずの成功や幸福を生涯にわたって夢見たり、それが叶えられなかったからといって激しく後悔したり恨んだりする人は大勢いるんだろうが、この映画の若夫婦もその典型。(このようにやたら体言で止める表記が新聞などで頻用されているが、これってせっかちで醜い日本語だから出来るだけやめようね)

 

 戦後間もない50年代のパリで、恐らく高い学歴もなく語学も出来ない女性が、簡単に仕事を見つけて夫を養うことなど出来るのかと心配になるが、NY近郊の高級住宅街を飛び出してパリにいけば、思い通りの人生が展開するに違いない、と思いこめるのも若さの特権だから、思い切ってとびこめば成否は別にしてこんな悲劇は起こらなかったのにね、といいたくなるのだが、それだとこの優れた映画は成立しなかったことになる。

 

しかしそういう理想と現実の落差に激しく一喜一憂する悲劇的な2人を、ケイト・ウィンスレットとディカプリオが体当たりで熱演していて好感が持てる。サム・メンデスの演出も素晴らしい。と他ならぬこの私が書いているのだが、ああもうだめだ、またしてもその映像をことごとく忘却してしまっている健忘症の私。なのであったあ。

 

 

藤圭子よ、今宵冥界からの「夢は夜開く」を聴かせてよ 蝶人