蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

滑川を歩く

kawaiimuku2008-05-27



♪バガテルop58&鎌倉ちょっと不思議な物語128回

昨日の続きで極楽寺界隈の話を書かなければいけないのですが、今日の午後、滑川(なめりかわと呼びます)にハヤの群れが気持ちよさそうに泳いでいたので、それをデジカメで撮影しようと身を乗り出した途端に、ポロシャツの胸ポケットに入れておいた携帯が5メートル下の川岸に落ちてしまいました。

 幸い水中には落下しなかったので、飛び降りようとしましたが、足を折らずに着地したとしても這い上がるすべがなさそうです。やむをえずずっと上流の私の家の前の橋から降りて、うねうねと回流している川をおよそ500m下流に向かって歩くことにしました。あの十二所神社のおみこしを流したといわれている滑川を、です。

原稿の締め切りが迫っているし、草取りの後片付けもあるし、ははの家の電気工事の立会いもあったのですが、背に腹は変えられません。家からハシゴや長い布切れを持ち出し、ゴム長に履き替えて橋桁からえいやっと滑川に飛び降りました。

川幅は1mから3mくらいの狭さですが先日の増水で川の流れが速く、深さは浅いところで5cm、深いところで30cmくらいですが、ところどころに暗渠や小さな滝もあって歩きやすいとはお世辞にもいえません。道路の上では細君も心配そうに見守っていますが、こうなれば前に進むしかありません。意を決した私はどんどん川の中を歩き始めました。

 お日様が上空からかっと照りつけてはいますが、初夏の爽やかな風が全身を包んでくれるので意外に快適です。ゴム長でじゃぶじゃぶ前進していくと、驚いたハヤや藻屑蟹たちが急いで岩陰に姿を隠します。目の覚めるような群青色に輝く翡翠も敏捷な身のこなしを見せながら下流に逃げていきます。
私はだんだん愉快な気分になって大股に初夏の滑川を移動して行きました。

じつは私がもっとも恐れていたのはこの川に生息している蛇と蜂でした。アオダイショウやヤマカガシなどは、手にした木の枝で簡単に追い払うことができますが、産卵期のマムシはきわめて獰猛で、下手に向かっていくとまるで空を飛ぶように牙を剥きながら襲い掛かってくるので気をつけなければいけません。

またスズメバチも鬼門です。なぜなら既に2回彼らに刺されているハチ毒超敏感症候群の私は、3度目には生命の保証はできないと医師に警告され、エピペン注射液を処方されているからです。

しかさいわいにも1匹の蛇さんややスズメバチさんに遭遇することなく、目的地までたどり着き、携帯を拾って無事に元の地点まで戻ることができました。めでたし、めでたし。
最後に、いつもこのようなドジをやらかす私に対してホトホト呆れ返りながらも、仕方なく協力してくれるわが細君に衷心より感謝申し上げる次第です。

翡翠の午睡を破る川下り 茫洋