蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ドナ、ドナ、どーなの


♪バガテルop56

昼前に中野坂上の学校に行く。駅前のドナという名前のパスタ屋に入って790円のパスタセットを食べていたら、隣の客が煙草を呑みだした。あわてて店長に禁煙席はどこだと聞いたら、「んなものありません」とかなんとか小さい声でむにゃむにゃ言いつつ蟹のように横歩きしながら消えていく。

そのうちに反対隣の客まで煙草を吸い始めたので、息を止めながらサラダとパスタとコーヒーを一気飲み喰いしてレジに直行、「もう君の店には二度と来ない」と告げて近所の公園に逃走した。

久しぶりの快晴である。やれやれと深呼吸したら、またしても煙草の煙を吸い込んでしまった。あたりを見回すとまたしても喫煙者が……。
私は学校めがけて一目散に走り出した。

ロンドンのパブも、サンフランシスコのレストランも、パリのカフェですら禁煙になったのは、喫煙が立派な病気であり、ニコチン中毒を経て多くの人の健康を損ない、死に追いやる災厄であるばかりか、その被害が周囲の非喫煙者をもまきこんでしまうからだ。

喫煙者は緩慢な自殺を実行しているわけだが、それは本人の自由だとしても、他人を巻き添えにすることだけはやめてほしい。それは緩慢な他殺行為であるからだ。そうした事情を知りつつ禁煙席すら設けないでいるとしたら、ドナは殺人に加担しているといえなくもない。


♪「どっちのイアリングがいい」と妻が息子に聞いている 茫洋