蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

山本薩夫監督の「華麗なる一族」を見ながら


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.66

山崎豊子と組むと無類の面白さを発揮する山本薩夫の代表作です。この人はいかにもな旧時代型の反体制主義者なおですが、であるがゆえに安心し、かつ、たかをくくって見物していられるところに、いわゆるひとつの偉大なる暗闇的存在価値があるのです。

この映画のいちばんの見どころは、万策尽き果てた万俵家の長男鉄平が国会議事堂のまん前の交差点を赤信号であるにもかかわらず平然と歩いていくところ。親にも、政治家にも絶望して自死を決意した男の孤独と絶望をこれほどさりげなく表出したシーンはないでしょう。

役者は鉄平の仲代達也、父親の佐分利信、情婦の京マチ子、私の大好きな酒井和歌子などみな好演しているが、とりわけ素晴らしいのが大蔵大臣役の小沢栄太郎。なに、彼のどこがいいんだって? この男が喋ると、煙草混じりの口臭がこっちにブンブン来るでしょうが。こういう役者は日本全国どこを探してももういなくなってしまいました。

丹波篠山の山奥で右足の親指で猟銃の引き金を引いて自殺する仲代達也の演技を見ながら、僕ならもっと上手にやってみせると呟き、その4年後に実践してみせた田宮二郎も別の役で出演しています。


介護せず介護されずに生きてあれば天国にある心地こそすれ 茫洋