蝶人戯画録

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マイケル・アプテッド監督の「エニグマ」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.65

エニグマ」はエルガーの曲でよく知られているが、その同じ名前をナチスが自軍の暗号名としていたとは知らなかった。

この映画は、第二次大戦中にそのエニグマの謎の解明に青春を捧げた英国暗号解読チームの知られざる活躍を、彼らの恋と友情、そしてソ連のカチンの森の虐殺事件のエピソードを交えて描いている。

結局彼らの活動のおかげで英軍は暗号解読に成功するのだが、それ以上に興味深いのは当時の友好国ソ連が、カチンの森でポーランド将校を虐殺したことを知った暗号解読チーム内のポーランド人や英国軍の高級将校たちの動きである。前者は敵の敵であるドイツに味方しようとしてスパイとなり、後者はその「危険な」情報を抹殺しようとする。

ケイト・ウインスレットなど存在感の乏しいうすっぺらな役者しか登場しないが、戦争当事者である英国とドイツ両国の資金で製作されたこの映画はハリウッドとは一味違う暗さと重さが底流に流れており、ベテランのマイケル・アプテッド監督がそつなくまとめている。

特筆すべきはジョン・バリーの音楽。ジエーン・バーキンの最初の夫であったこの人は、なにを隠そう私が最も評価している映画音楽家で、彼の最新作を一聴するためだけでもこの映画は価値がある。

わが魂の奥に燃ゆるか修羅炎 茫洋