蝶人戯画録

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ブダペスト弦楽四重奏団の「ベートーヴェン全集」を聞いて


♪音楽千夜一夜  第173夜

これも1枚200円也のソニーの廉価盤の8枚組ですが、値段と演奏はともかく録音のひどさは目に、いや耳に余ります。

同じ演奏をLPレコードで聴いてみると、かなり楽器に近接したオンではありますが、大きく生々しい音がしてそれほど悪くはない録音なのに、これではCDにした意味がない。

いやそういうレベルの話では、どんなハイテクを駆使したデジタルCDも優秀録音のアナログレコードに「音楽的音響のクオリティ」としてはかなうはずがないのですが、この商品を聴き続けると私の耳を痛めてしまう危険があるので、全部は聞かないまま栄えあるお蔵の殿堂入りとなりました。

これに似たひどい録音としては、リリー・クラウスのステレオによるモーツアルトのピアノ・ソナタがありますが、これもコロンビア・ソニーの悪質な技術者の手になるものでした。

クラシックの録音といっても、別にクラッシックのマニアが担当するわけではありません。音楽芸術とはまるで無縁な単なる工学技術者が、録音やマスターテープの作成、リマスター作業にかかわっているために、昔も今もこういうアホバカ珍現象が起こるのです。ウィルヘルム・ケンプの2度目のベートーヴェン全集を担当したドイツグラモフォンのテクノ馬鹿が、いかに天真爛漫な芸術家の心と創作意欲を傷つけたかは、そのCD録音を1回目のモノラル録音と聴きくらべてみればよく分かりますし、さきに挙げたクラウスのモーツアルトを、モノラルの韓国EMI盤と比較してもつぶさに体感できるはずです。


音楽の心も知らず音楽を製造している音楽産業 茫洋