蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2010年極月茫洋狂歌三昧

♪ある晴れた日に 第83回


なんだって後出しじゃんけんで偉さうに歴史を裁くなダンテ

円安の時は黙って左団扇円高になれば泣いて文句言う幼児の如き輸出企業

ひだりぎっちょなので小便も左に向かって飛んで行く

ロシアといえばイワンの馬鹿を思うロシアの馬鹿

三台のポルシェとスタインウエイ持つ青森県の山林王の奥さん

借金が税収より多き国埋蔵金を探して歩く人もなし

山の音はわが心韻にして神韻なり山の音す

横山のフクちゃん宅の桜の宴プールに飛び込みしは赤塚不二夫

そういえばそういう人もいたわねえなどいわれつつ静かに消える

介護せず介護されずに生きてあれば天国にある心地こそすれ

営業は真心に尽きるなり逗子ホームイング石田店長

なにゆえに福田の里より電話しないホームステイの息子よ元気か

いっちょ戦争でもやりたいなとアホ餓鬼ども騒ぐ

いくたりも夥しき死人出せる家並び鳶舞う鄙を鎌倉と呼ぶ

七百年あまたの死者を葬いし小さき鄙を鎌倉と呼ぶ

どうだんの躑躅の花は火と燃えてわが魂に燃ゆる修羅の炎

音楽の心も知らず音楽を製造している音楽産業

天も裂けよ地も割れよビオラを擦る一〇人の男たち

藤原義江
声美しき人心清しと刻まれて我等のテナーここに眠る 

「そして夢」と花崗岩に刻まれし私の義父を西陽照らせり

バス停で息子を殴りし「しょうじ」てふ表札尋ぬる極月の宵

貫之
「だ」で書くと男「です」で書くと女になったような気がします 

なにゆえにいま生まれしか黄色なタテハ

わが魂の奥に燃ゆるか紅蓮修羅

わらわらと松の廊下を駆けにけり

紅白のさざんかに埋もれ冬籠り

われは夫君は妻目と目の間で魔物が笑う

年賀状はださないことにしました来年は

香川逝けり子規さながらに極月十二日

星月夜鎌倉の闇の深さかな

星ノ井や君の瞳とわが瞳



鎌倉の朝日巻頭を飾りたる「鳥とりどり」の連載終わる 茫洋