蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

極月三題噺


バガテルop133

日本経済新聞
毎日これほど膨大な数字を取り扱う媒体は類を見ないが、石川啄木のような人が校正しているのであろうか。たまには誤植もあるのではなかろうか。この新聞の文芸欄は朝日より充実しているが、最近連載が終わった小池真理子という人の「無花果の森」はお粗末だった。これでも直木賞作家の作品か。結局なにごとも起こらなかった。文学も音楽もなにかが起こらなければぜったいに駄目だ。小澤征爾とN響は死ぬまで待ってもなにも起こらないから駄目なのだ。短い文章なのに日経夕刊でいつもあざやかな火花を爆ぜているのが森岡正博の火曜日のエッセイ。「ソトコト」巻頭の福岡市伸一、林望と並ぶ現代日本語随筆の三筆だ。


菅内閣。
予想通り、いやそれ以上にひどいものだが、そもそも汝政治に多くを期待するなかれ。それほど悲噴慷慨なさるのなら夫子自らやってみなはれ。他人の悪口は言えても自分でやるとなるとなかなか難しいものだよ。昔の明るいナショナル小泉自民党にくらべたら靖国に参拝しないだけでもはるかにまし。われわれとまったく変わらぬ凡人どもが、クラス委員よろしく下手くそなド素人政治やら裁判を悲喜こもごもわいわいがやがややるのが民主主義というもの。戦前のわが帝国や中国やビルマ、ロシアなどに比べればそれこそ天国と地獄の違いだ。ああ、素晴らしきかな、この駄目で無様で最悪な邦、ニッポン! このままよろめきながら遠くまで行けばいいんだ。沈みゆく真っ赤な夕陽に向かって。


NHK。
どうしていまのBS3チャンネルを、来年4月から2チャンネルに減らすのか。下らないあほばか民放チャンネルばかりうじゃうじゃ増やしていったいどうするんだ。総務省のくそたり。

N響 しかなたなく耳にしているが他の民間オケと比べて演奏内容が無個性でひどすぎる。無能オケにして無脳桶。即刻解散して公募でメンバーを再募集するか、経営をNHKから切り離して独立採算制で鍛え直すべし。泣く泣く滅びた新星日響の爪の垢でも煎じて飲め。

坂の上の雲」のはるか坂下で子規死す。好漢香川照之選手が子規さながらに果てた。じつに立派な死に顔であった。このドラマはかの「龍馬伝」とおなじ伝で国家主義を時を得顔に鼓吹する低俗番組であるが、妙なところで時々面白い。前回は子規が「鶏頭の十四五本もありぬべし」と詠んだ根岸の子規庵がリアルに再現されていた。わが国の近代文学と近代建築の源流は、この粗末な木造平屋のガラス窓を流れていった四季折々の坪庭の風景から出発している。昔私がここを訪れたとき、寒川鼠骨の子孫に当たる年輩の女性が、子規の高弟が子規庵の保存に無関心であることを盛んに訴えて、なかなか帰してくれなかったことをはしなくも思い出したが、さもあらんか。


香川逝けり子規さながらに極月12日 茫洋


おまけの四題目
「親交が深い」。
とは同義反復。トートロ爺。すでにして親し、さすれば交わり深からぬはずがない。記者諸君は、ただ「親交があった」と書けばいいのだ。