蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2011年師走 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第102回

「カチューシャ」の転調していくところが好き なんだかワクワクしてくるから
生きる悦びを感じるから

マーラーを好きでも嫌いでもない人がマーラーを名演してもこりゃ詮無いわなあ

痩身長躯で躁鬱でユダヤ人のくせにカトリックで最期にユダヤ教に戻ったクレンペラーマーラーを聴け

マーラーに神は見えずブルックナーはバッハと同様神を見た人

ハーレムの奴隷となりしデートリッヒ今宵コーランをひとり読むらん

男一匹金玉二つてんでカッコよく死んでやろうじゃん

病院では年齢と生年月日を言わせる。もひとつ「老若男女」と言わせてみなさい

お母さんと西友行きます!お母さんと瀬西友行きます!と叫ぶ君 そうかいもうお父さんとは行かないのかね 行ってくれないのかね 僕の息子のくせに

おいらはイサムノグチの提灯なんて要らないけれど、あの簾だけは欲しい。欲しい。欲しい。

耳を聾せんばかりの大声で電車の遅延を伝えたり鎌倉駅の駅員め

夢の無き国に住まいて夢を見る

一機89億のF35を買わなければいろいろ買えるがな

僻村の孤老となりて冬籠り

喉ちんこ赤く腫れたり午前二時

玉虫を尋ねて行かむ幾千里

ガガズミの赤は野薔薇の赤より紅くしてサネカズラ、ピラカンサ我が家は赤い

じんせいなんてつうつうれろれろつうれれろ 

世の中や粗にして野にして卑なる奴ばかり
 
午前二時また玄関の鐘が鳴る

ダイアナ妃を恋人もろとものみ込みし巴里の暗虚はここにもありしか

WinWinの関係があたくしのコンセプトなどと抜かすこの女狐社長

鎌倉の駅前広場の赤とんぼわれひとともにたそがれてゆく

卑小なる己を神に擬しいと高きところめざす者に呪いあれ

西陽差すしやうぐあい施設の六畳間息子を託し黙して帰りぬ

長身でモデルのように美しい隣家の妻が越す明日かな

年の瀬やバーキンが呉れしリースを飾る

貧すれど貪するなかれ羊雲

かにかくに平成の世も暮れかかる

神仏を一縷の望みと頼りけり


最悪の年がようやく明けたれば少しはましな年が来るらむ 蝶人