蝶人戯画録

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倉田喜弘編岩波文庫版「江戸端唄集」を読んで

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照る日曇る日第739回 &遥かな昔遠い所で第86回

 

 

 この本をパラパラ手にとっていたら、夭折した近藤さんのことを思い出した。

 

 昔リーマン稼業をやっていたころ同じ課に近藤さんという若い女性がいて、宴会なんかの余興で三味線もないのになんとかかんとかサノサなどと唄っていたが、それが思いがけず普段とはトーンの違う渋い喉声で、きっと子供のころから小唄なんかを嗜んでいたのだろうが、色っぽくてカッコ良かった。

 

 小唄も端唄も同じだろうと思っていたら、どうも違うようだ。ウイキによれば江戸端唄は江戸時代中期以降における短い歌謡の総称で、長唄と対をなすという。小唄も端唄の名前で呼ばれていたが、1920年ごろに、さらりと歌う「端唄」、こってりした「うた沢」、撥を使わず爪弾く「小唄」、都都逸、かっぽれ、サノサなどの「俗曲」に分かれたのだそうだ。

 

 とすると近藤さんが愛唱していたのは俗曲だったかも知れないが、いまさらそんな重箱の隅をつついてもなにも出てこないに決まってる。

 

 そもそもこの本を編纂した倉田選手なんかは端唄の定義すらしていないし、端唄と称しつつ「俗謡」も加え、「江戸端唄集」と言いながら明治期の西南戦争や文明開化の散切り頭まで平気で入れているから、はて呑気なものだね。

 

 異人さんエ 異人さんエ 鹿鳴館の大夜会 なぜにそれに 急そゐで帰らんす グートバイ グートバイ

 

 この他の収録された作品は挙げないが、忠臣蔵源氏物語、四季12ケ月、百人一首をテーマにしたものなど、いずれも読んで退屈しないし、寓居の四畳半で自己流でうなってみるのも一興であらう。

 

 なお「あとがき」に、カール・ベームがウイーンフィルのニューイヤーコンサートを指揮したのをラジオで聞いた、とあるが、ベーム翁はバースタインと同様、生涯一度も元旦の楽友協会大ホールの壇上に立つことはなかった。

 

 なにゆえにベームバーンスタインは振らなかったのウイーンフィルのニューイヤーコンサート 蝶人